西川材について

埼玉県の優良材、西川材とは?


弊社が主に製材している「西川材」、その名をお聞きになった事はありますでしょうか? ウッドショック以来注目されている国産材ですが、埼玉県産の地元材である西川材についてお話しします。

西川材は西川林業地で産出される材

西川材という名称の由来は、実は地名ではありません。江戸時代、埼玉県の南西部、荒川支流の入間川・高麗川・越辺川の流域より木材を筏により江戸へ流送していたので、「江戸の西の方の川から来る材」という意味からこの地方の材を「西川材」、またその生産地であるこの地域が「西川林業地」と呼ばれるようになりました。

西川林業地は飯能市・日高市・毛呂山町・越生町にまたがり、都心から40~60km圏に位置し、その中心である飯能市は池袋から西武鉄道で1時間弱の距離にあります。またその総面積は31,513haで、そのうち森林面積が20,457haと全体の65%を占め、南北及び西は標高400~1,200mの山に囲まれ、東は武蔵野の平地に接しています。

地域の大部分が秩父古生層からなる褐色森林土で、平均気温12~14℃、平均降水量1,700~2,000mm、降雪は年3~4回と比較的温暖であり、地質・気候ともにスギ・ヒノキの生育に適しています。

この地域で産出される材は赤身の色・香りが強く、脂を多く含み、強度も強いと言われます。実際、一般的なスギのヤング係数はE70ですが、西川材のスギは同E80~90と高い数値となっています。

所有形態は森林面積のうち9割が私有林で、このほとんどが小規模であり、都市近郊という事もあって、会社勤務との兼業林家が大多数を占めています。

西川林業の沿革

西川林業の起源は明らかではありませんが、元享4年(1324)に秩父神社の造営材が我那(吾野)と那栗(名栗)に割り当てられているところから、その頃には既に、世間から注目される用材がこの地にあったことが分かります。

県史によれば、天和2年(1682)に江戸の大火のとき復興用材を新河岸より江戸に送った史実や、寛文年間(1661~1704)にこの地方への幕府の造林政策が強化され、スギの造林が実行されたことが文献の上で確認されていますが、これは一部の篤林家が実施していたに過ぎず、天然林を伐採利用することが多かったようです。

林業地としての本格的な発展は、質・量ともに明治中期以降と言えます。特に、日清、日露の戦争を契機として木材の需要が増加したため急激に造林熱が高まり、競って植林が行われました。更に関東大震災の際には、この地域に木材の需要が殺到し、西川材の名声が一段と高まると共に造林も一層盛んになり、今日の西川林業地が形成されました。平成21年3月には西川広域森林組合により「西川材」として商標登録されています。

林道の整備と西川材の流通

林道の整備は合理的な林業経営と山村振興を図るためには不可欠なものですが、西川林業地では車の普及とともに昭和30年代後半から盛んに進められてきました。現在、林道の現況は160路線、総延長229kmとなっています。また林道密度は11.2m/haで、全県の平均、7.3m/haを上回っています。また林道を補完する作業道の開設についても積極的に行われています。

西川林業地内には飯能市、日高市、越生町に6ヶ所の原木市場があり、関東一円から木材が集まってきます。また西川材は無節材などの優良材が多いことから全国的にも評価が高く、全国の業者が参集しています。現在、年間取扱量は約8.5万㎥で、主として地元製材業者を対象に素材を供給しています。また県内の製材業の約半数がこの地区に集まり、その製品の多くは地元工務店を通して消費されています。また入間川沿いでは、間伐材等小径木を利用した杭丸太生産業も盛んです。

育林技術

西川林業は長い伝統と林業者の強い愛隣思想に支えられ、集約的な育林作業により、短伐期で形質の良い小角材・足場材を多く生産してきました。近年は足場丸太の需要の減少等から徐々に長伐期化してきていますが、丁寧な育林作業により無節の優良材を生産しています。

施業の特徴としては、植栽はヘクタール当たり3000~4500本で、樹種はスギが約60%、ヒノキが約40%ほど。ごく少量、サワラやツガなども流通していますが、西川材として一般的なのがスギとヒノキです。また79%が人工林で、21%が天然林となっています。下草刈りは10年生くらいまで丁寧に行われ、うち2~6年生くらいまで2回刈りが行われます。枝打ちは良質材の生産には欠かせない作業で、5~6年生より25年生くらいまで3~4回行います。

また西川林業の特徴として、「立て木」があります。これは主伐時に優良木をヘクタール当たり10~15本程度残し、100~200年の長期にわたって保存するもので、地元の大径木の需要や所有者の特別な出費に備える意味もあります。

苗木の生産は古くから飯能市双柳地区で行われています。この地区は西川林業地最西部の平坦部に位置しており、立地と栽培条件に恵まれ、スギ・ヒノキ等の優良苗木の生産が行われてきました。以前はスギが大半を占めていましたが、ヒノキの需要が多くなってきたことから、現在ではヒノキ苗の生産を主としており、県内供給量の90%以上を占めています。

西川林業の現状と課題

西川林業地の針葉樹素材生産量は平成30年度で約9,365㎥となっていますが、1970年代をピークに大径木など良材の需要が減少し、それに伴って価格も低迷しています。現在、原木市場での丸太の平均価格は平成元年に較べると5分の1にまで下落しており、林家の出材意欲は減退したままです。また、林家や林業・木材産業従事者の多くも少子高齢化が問題となっており、事業継承に課題があります。

これらの課題を持続可能な方法で解決するため、地元有志の会を母体として「西川地域スマート林業協議会」が発足しました。残材の一括買い取り・製材と燃料生産の効率化・発電+売電・6次産業施設 などからなる「飯能モデル」の実現に向けて活動をしています。